ロンタイン国際空港 ― 南ベトナムの未来を変える「空のゲートウェイ」への期待と課題

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ロンタイン国際空港とは ─ なぜ今、建設されるのか

現在、ホーチミン市および南部ベトナムの空の玄関口となっているのは、タンソンニャット国際空港(SGN)です。
しかし、都市の急速な拡大と航空需要の増加により、タンソンニャット空港は長年にわたり慢性的なオーバーキャパシティと混雑に悩まされてきました。

こうした背景から、ベトナム政府は南部に新たな国際空港を建設することを決定し、候補地として選ばれたのがドンナイ省ロンタイン郡です。これが「ロンタイン国際空港」です。

この計画自体は、1970〜80年代頃から構想として語られてきたとされますが、現在進むかたちで正式に国家プロジェクトとして承認されたのは2020年前後とされています。その後、本格的な建設工事がスタートしました。

ロンタイン国際空港は、将来的にベトナム最大規模の空港となることを目標にしており、最終段階では

  • 旅客数:年間約1億人

  • 貨物取扱量:年間約500万トン

といった規模が想定されています。

つまり、単なる「タンソンニャット空港の代替」ではなく、南部ベトナム全体の空の玄関口として、国際線・貨物便・ハブ機能を一体的に担う“未来型インフラ”として位置づけられているのがロンタイン国際空港です。

現在の建設状況と「いつ使えるか」の見通し

建設の進捗状況(2025年後半時点)

2025年11月時点の報道などによると、ロンタイン国際空港は次のような段階にあります。

  • 旅客ターミナルは、ベトナムを象徴する「蓮の花」をモチーフにした特徴的なデザインで、その外装工事がおおむね完了。

  • ターミナル内部の内装工事、搭乗橋の設置、各種設備の取り付け、AIを活用した運行・オペレーションシステムの調整などが進行中。

  • 現場には約1万4,000人規模の作業員と、3,000台を超える建設機械が投入されており、過去に例を見ないスピードと規模で工事が進められています。

  • 空港本体だけでなく、ホーチミン市中心部とロンタインを結ぶ高速道路や接続道路の整備も並行して進められており、「空港までどうアクセスするか」という課題への対応も進行中です。

いつから使えるのか(運用スケジュール)

公式発表や現地報道を総合すると、現時点で想定されている大まかなスケジュールは次の通りです。

  • 2025年12月19日前後
    第1期の「試験運航」「初便受け入れ」が予定されており、ハノイ発のフライトを迎える計画が報じられています。

  • 2026年6月ごろ
    旅客便や一部国際線を含む「商業運用の本格開始」が目標とされています。

ただし、運用開始直後から全ての国際線が一気にロンタインへ移るわけではなく、

  • しばらくの間は、既存のタンソンニャット国際空港とロンタイン国際空港が併存する形

  • 特に長距離の国際線(欧米・オセアニアなど)から優先的にロンタインへ移行

  • 2026年夏以降、航空会社に対し段階的な移転・路線移管が推奨されていく

という、段階的な移行プロセスが予定されています。

ロンタイン空港開港による「良い影響」

ここからは、ロンタイン国際空港が開港することで見込まれる「プラスの影響」を、
1)南部ベトナム全体、2)旅行者・市民生活、3)ビジネス・物流
という3つの観点から整理します。

1. 南部ベトナム全体:国際ハブとしての飛躍

ロンタイン空港が本格的に稼働すれば、南部ベトナムは

  • 国際線の乗り継ぎ拠点(ハブ)

  • 国際貨物輸送の拠点

  • 観光・ビジネスの玄関口

としての機能を大きく高めることが期待されています。

これにより、

  • 東南アジア各国だけでなく、欧米・オセアニアなど世界各地との直行便や貨物便が増加

  • 人の移動とモノの流れがともに活発化

  • 輸出入ビジネス、製造業、観光業、サービス業など幅広い分野の活性化

といった効果が見込まれます。

とくに貨物輸送量の増加は、

  • ベトナムで生産された工業製品・農産品・水産品の輸出

  • 日本などから輸入される機械・部品・消費財の流通

といった領域に直結するため、日本との経済関係にもプラスに働くと考えられます。

経済面では、空港周辺のドンナイ省にとどまらず、

  • ホーチミン市

  • ビンズオン省

  • バリア=ブンタウ省

など、南部全域に地価上昇やインフラ投資、関連産業の発展が波及していく可能性があります。
現地では「空港都市(エアポートシティ)」構想も語られており、空港を中心とした新しい都市圏の形成が期待されています。

一部の地元メディアでは、ロンタイン空港を「100年に一度の経済ブースト(景気押し上げ要因)」と表現するほど、そのインパクトは大きいと見られています。

2. 旅行者・市民にとっての利便性向上

利用者の目線から見ても、ロンタイン空港には次のようなメリットがあります。

  • 慢性的な混雑や遅延で知られるタンソンニャット空港の負荷が分散される

  • より広く、より新しいターミナルを利用できることで、手続きや搭乗がスムーズになる可能性

  • 空港での待ち時間やチェックイン・保安検査の混雑が緩和され、旅行全体のストレス軽減が期待される

加えて、空港アクセスのための

  • 高速道路の整備

  • 将来的な鉄道・地下鉄(メトロ)によるアクセス構想

などが実現していけば、ホーチミン中心部から空港への移動がより便利になる可能性があります。
将来的には、「ホーチミン中心部から1時間前後で到着できる国際ハブ空港」という姿が理想とされています。

また、国際線の増加や、多数の航空会社の参入による競争激化により、

  • 便数の選択肢増加

  • 航空運賃の低下

といった形で、海外旅行やビジネス出張が今より身近になることも期待できます。

懸念・課題 ― 浮かび上がる「新空港の影」

一方で、ロンタイン空港には期待だけでなく、いくつかの懸念や課題も指摘されています。

1. アクセスの問題:車依存と公共交通の遅れ

現時点で具体的に整備が進んでいるのは、主に

  • 自動車向けの高速道路

  • 一般道路

であり、鉄道・地下鉄といった大量輸送機関はまだ構想段階にとどまっています。

そのため、開港当初のロンタイン空港は、

  • 車・バス・タクシーに大きく依存するアクセス形態

  • 公共交通機関が十分に整っていない状態での運用開始

となる可能性が高いと見られています。

これは、

  • 空港までの移動時間が読みにくい

  • 渋滞が発生しやすい

  • 交通費が高くつく

といった利用者側の不満につながるおそれがあります。
実際、現地メディアなどでは「利便性に不安がある」という声も少なくありません。

2. 地価高騰と住環境の変化

空港建設とインフラ整備が進むことで、周辺エリアの地価は上昇傾向にあります。
これ自体は投資・開発の面ではプラスですが、一方で地元住民にとっては

  • 土地や住宅価格の高騰

  • 家賃の上昇

  • 生活コストの増加

など、負担の増大という側面もあります。

また、

  • 空港アクセス道路の通過

  • 交通量の増加

  • 騒音・環境負荷の増大

といった形で、長年暮らしてきた地域の住環境が急激に変化する可能性もあり、社会的な摩擦が生じる懸念も指摘されています。

3. 運用開始直後の混乱リスク

ロンタインとタンソンニャットの「二つの空港体制」から「ロンタイン中心」への移行は、一夜にして完了するものではありません。
そのため、移行期間には次のような混乱が起こりやすくなります。

  • 航空会社ごとに発着空港が異なる

  • 国内線と国際線で利用空港が分かれる

  • 乗り継ぎ動線が複雑になる

このような状況では、

  • 旅行者が誤って別の空港に行ってしまう

  • 荷物のハンドリングや乗り継ぎでトラブルが増える

  • 航空会社や旅行会社、物流会社のオペレーションが一時的に複雑化する

といったリスクがあります。

特に、国際線と国内線を乗り継ぐ場合や、東南アジア他国経由でベトナムを訪れる場合には、「どの空港を利用するフライトなのか」を事前にしっかり確認する必要が出てくるでしょう。

旅行者にとっての変化

日本人旅行者にとっては、次のような変化が考えられます。

  • 長距離国際線の一部がロンタイン発着に移ることで、より快適な新空港を利用できる可能性

  • 南部だけでなく、メコンデルタや中部・北部など、ベトナム各地へのアクセスが改善する可能性

  • 航空会社間の競争により、航空券の価格やサービスに変化が出てくること

一方で、前述の通り

  • 移行期には「どの空港発着か」を慎重に確認する必要がある

  • 空港までの移動に時間がかかったり、交通費が上がる可能性がある

といった注意点もあります。

なぜ今、このタイミングで進められているのか ─ ベトナムの国としての戦略

ロンタイン空港建設の背景には、単なる「タンソンニャットの混雑解消」以上の国家戦略が存在します。

主な狙いとしては、次のような点が挙げられます。

  • 南部ベトナムを、国際物流・観光・投資のハブとして位置づけ、国全体の経済成長を加速させる

  • 空港を核に、高速道路・鉄道・経済特区・工業団地・物流基地などを結びつけた複合的な「空港都市モデル」を構築する

  • 人口・経済活動・インフラ投資がホーチミン市一極に集中しすぎないよう、周辺省(ドンナイ、ビンズオンなど)に機能を分散させる

言い換えれば、ロンタイン空港は「ベトナムという国の将来像を形作るための骨格インフラ」であり、単に飛行機が離着陸する場所以上の意味を持っています。

ただし“成功が約束されているわけではない” ─ 鍵を握るポイント

最後に、ロンタイン空港が真に「成功したプロジェクト」となるために必要な条件を整理します。

  • アクセスインフラをどこまで整えられるか
    高速道路だけでなく、鉄道・メトロ・バス網など、誰もが利用しやすい公共交通を整備できるかどうかが、空港の利便性を大きく左右します。

  • 運用の混乱をどれだけ抑えられるか
    タンソンニャットからロンタインへの移行を、航空会社・利用者・物流業者にとって分かりやすく、無理のない形で進められるかが重要です。

  • 地域開発と住民生活のバランスをどう取るか
    開発の恩恵と副作用を丁寧に見極め、既存住民の生活を守りつつ、持続可能な開発を行う必要があります。

  • 近隣国とのハブ競争に勝てるか
    タイ、シンガポール、マレーシアなどもハブ空港を持つ中で、単に「新しい空港がある」だけでは十分ではありません。路線網、サービス水準、コスト競争力、都市の魅力など、総合力が問われます。

日本とベトナムを結ぶビジネスにとっての意味

日本とベトナムの間で、

  • 物流・貿易

  • 製造委託・OEM

  • 観光・サービス業

  • 越境EC・オンラインビジネス

といった領域に関わっている企業・個人にとって、ロンタイン空港は「新しいチャンスの入口」になり得ます。

しかし同時に、

  • どのくらいのスピードで路線が移行するのか

  • 実際のアクセスはどれくらい便利になるのか

  • 物流コストやリードタイムはどう変化していくのか

といった点を冷静に見極めながら、自社のサービス設計や物流ルート、販売戦略を調整していく必要があります。

ロンタイン空港は、南部ベトナムの未来を開く「扉」であることは間違いありません。
問題は、その扉の向こうに、どのような交通網・都市・ビジネス環境・生活環境を整えていけるか。
まさに、これから数年の動きが試されるフェーズに入っていると言えるでしょう。


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